10年近くの付き合いになる、経営者の知り合いがいる。クラウドソーシングサイトで知り合い、過去に1度だけ仕事を請け負ったが、それ以降は数年おきに飲みに行くくらいの距離感で、仕事の誘いも何度かあったが全て断ってきた。
最近、僕が起業した会社を抜けたことをSNSに呟いたからだろうか、久しぶりに仕事に誘われた。しかも今回は単純な依頼ではなく、自身の会社の役員として経営に携わって欲しいとのこと。
これまで仕事を断ってきたのは、彼という人間に対してなんとなく不信感のようなものを抱えてきたからだ。だから今回も正直乗り気では無かったが、SESという僕にとっては全くの異業種で、しかも事業の売却という具体的な目標もあり、2年くらいなら挑戦してみてもいいかな〜という軽い気持ちで一旦承諾してしまった。
その後、現在の会社の状況や条件面など具体的な話を彼と進めていくうちに不安が募っていった。また、薄っすらと進めている転職活動の方では、少し魅力的な会社が見つかったこともあり、これからの進路について考え直したい気持ちが強くなった。
そして結局、本来なら今月から着任するという話だったが、月初になって僕は辞退を申し出た。
昔から決断が遅いことで数々の失敗をしてきたが、今回も例に漏れず、期限を過ぎてからの撤回。そこに関しては完全に僕が悪いと反省している。ただし正式な契約書は巻かれておらず電話での口約束のみで、具体的な案件が始まっていたわけでもないから、途中で離脱することに比べれば、かけた迷惑は最小限ではないだろうか。
長くなったが以上が前書きで、ここからの展開が予想外だった。
定着しない社員
が、まずは彼に対する不信感について。
彼は昔、高額な自己啓発セミナーを執拗に勧めてきたこともあり、そもそも警戒はしていたのだが、今回仕事の話をする中で、辞めていく社員に対する文句が多いことに気付いた。
せっかく育てた社員がより成長できる場所を目指して転職してしまうのは、IT業界なのである程度は仕方ないが、それにしても離職率が高い。実際、SESに5年以上勤めていたという知り合いは何人かいる。社長である彼に、社員が退職する原因が全く無いと言えるんだろうか?
また、ポテンシャル枠として採用した社員に対する評価にも酷いものが多かった。僕ならまず採らないような人を採用してしまっているのはともかく、もし彼の人を見下すような態度が表出してしまっているなら、社員の反抗的な振る舞いも同情できる部分があるのかもしれない。
思い返せば、これまで彼の口から、社員との関わり方に関して自分に落ち度があったという話は聞いたことが無い気がする。実名でやっているSNSでは会社のブランディングもあるのか、多少虚勢を張ってしまうのは理解できるが、サシ飲みの場であっても弱みを出さないのは、あくまで体面を気にしているのか、あるいは問題を認識していないのか。そういう違和感がずっと僕の中にあったのだろう。
突然の激昂
とはいえ彼とは、これらの点を指摘できるほどの関係性ではない。だから僕が辞める理由も、SESは自分に向いてないとか、自信が無いとか、あくまで自分側の問題として提示し(それ自体は嘘じゃない)、できる限り謝罪の気持ちを添えて辞退を申し出た。
すると返ってきたのは、君とは根本的に考え方が合わないとか、仕事を任せられないとか、まあ色々と書いてあった。この先ずっと成長できないとか、呪いのような言葉もあった。そして当て付けのようにつらつら述べたあと、これっきりにしよう、と。いわゆる絶交というやつだ。
ここまで言われるほどか?と思ったものの、彼にしてみれば僕に裏切られたと感じたはずで、その怒りのままに長文を書き殴ってしまったのかもしれない。それに関しては本当に悪いことをしたなと思っている。だから、僕を過大評価したのはそちらの責任では?とは言わない。
ただ、このような突発的な激昂を他の社員にも向けていたとしたらどうだろう。僕の憶測でしか無いけれど、社員の定着率の低さにも少し納得できてしまう。
結果論ではあるが、彼のこの反応を見て、やはり辞退しておいて良かったと心底思った。
本音と建前
彼を信頼できないという旨を僕は伝えなかったが、退職理由なんて大体そんなもんじゃないだろうか。みんな大人だから無用な争いは避けたいし、下手に本音を漏らして揉めるくらいなら、自分を悪者にして逃げておきたいと考える。僕も同じだ。
だから上司は部下の言葉を鵜呑みにすべきじゃないし、いつでも自分に非がある可能性を残しておくべきだと思う。
決して上から評価されることが無い立場である経営者は特にそうで、社員の口から出た建前をそのまま受け取っていては、永遠に根本的な問題に気付けない。だから第三者のメンターを付ける経営者が多いのかもしれない。勉強してないのでわからないが、多分あるあるネタだろう。
彼のSNSを見てみると、案の定、僕への悪言が連日書き込まれていたが、まあそれで彼の溜飲が下がるなら良いと思う。
一方、僕はギリギリのところで危険を回避できたし、人の見極めという点で前回の失敗を活かせたように思う。彼には申し訳ないが、本当に良い経験だった。